性能、お金、そして暮らし。リノベーションへの3つの不安を考える。
前回まで、リノベーションについて「①性能のこと」「②お金のこと」とお話ししてきました。
今回は3つ目。
「リノベーションでも、自分たちが思い描く暮らしは実現できるのか?」
について書いてみたいと思います。
新築とリノベーションの大きな違い
新築の場合、土地のポテンシャルや近隣の環境、法規などの影響はありますが、基本的には0から設計を組み立てていきます。
そのため、自分たちが理想に描く暮らしをカタチにしやすいのは、新築の大きな魅力です。
一方、リノベーションは、今ある建物を利用することが基本です。
柱や梁、基礎、屋根など、すでにそこにあるものを生かしながら設計していきます。
場合によっては、増築したり、逆に減築したり。
既存の建物を読み解きながら、新しい暮らしへと組み替えていきます。
そう聞くと、「やっぱり新築より、できることが限られるのでは?」と思われるかもしれません。
確かに、構造的な制約はあります。
でも、これまでいろいろなリノベーションを手掛けてきた実感としては、「思っているほど、できないことはない」というのが私たちの答えです。
そして、もっと面白いのはここからです。
既存の建物という「制約」があるからこそ、新築では思いつかなかったような空間が生まれることもあるのです。
人が自然と集まる家へ

例えば、こちらのリノベーション。「螺旋階段のある家」です。
このお宅は、人が集まることの多いご家族でした。
そこで、遊びに来た友人たちが自然と集まり、一緒に食事をしたり、ゆっくり過ごしたりできる住まいを考えました。
もともとは、8畳ほどの和室に床の間、広縁があり、別に洋室がある、昔ながらの間取りでした。
そこから、必要な耐震性を確保しながら壁を取り除き、大きなワンルーム型のリビング・ダイニングへ。
さらに吹き抜けを設けることで、横方向だけでなく上方向にも視線が抜ける、開放的な空間にしています。
階段の位置も変更し、視線や光を遮りにくい螺旋階段を採用しました。
元々広縁だった部分は玄関へと変え、そこから土間がキッチンまでつながっています。この開放感が、とても気持ちいい。
もちろん、大きく間取りを変更する場合には、構造的な検討が欠かせません。
工事内容によっては、建築基準法上の手続きが必要になる場合もあります。
だからこそ、既存建物の状態をきちんと調査し、構造を理解したうえで設計・施工できることが、リノベーションではとても大切になります。
「制約」は、本当にデメリットなのか?
この家を見ていると、「構造的な制約=デメリット」とは限らないことがよく分かります。
残さなければならない柱がある。既存の梁がある。昔の家ならではの寸法がある。もともとの広縁がある。
それらを「邪魔なもの」として考えるのではなく、どう生かすかを考えていく。
すると、新築ではそもそも生まれなかった発想が出てくることがあります。
「リノベーションだから仕方なくこうなった」のではなく、「リノベーションだったから、こんな空間が生まれた」。
ここが、リノベーションの面白いところだと思います。
では、リノベーションはどこまでできるのか?
もう一つご紹介したいのが、エフ・ベースの性能向上リノベーションのモデルハウス「U10」です。
築年数を重ねた空き家を取得し、耐震改修・断熱改修を行ったうえで、リノベーションの体感施設、そして宿泊施設として再生しました。
U10では、「リノベーションで、どこまでできるのか?」その可能性を突き詰めながら、新しい試みも実験的に取り入れています。
その一つが、断熱です。U10では、新築住宅にも引けを取らない高い断熱性能を目指しました。
特徴的なのが、ウッドファイバー(木質繊維断熱材)を使っていることです。


屋根には300mm以上のウッドファイバーを吹き込み、壁は外側に50mmのボード状のウッドファイバーを施工。
さらに壁の中にも105mmのウッドファイバーを吹き込んでいます。
ウッドファイバーの面白いところは、単純に「熱を通しにくい」だけではないところです。
木質繊維を原料とした断熱材で、断熱性に加えて蓄熱性があり、外部の温度変化が室内へ伝わるまでの時間を遅らせる効果が期待できます。
また、繊維質の材料であることから吸音性もあります。
数値としての断熱性能だけではなく、温度変化の穏やかさ、静けさ、そして身体で感じる心地よさ。
そこまで含めて体感してもらいたいと考えました。
「風のない冷暖房」という心地よさ

空調設備にも、新しい試みを取り入れています。採用したのは、PSの放射冷暖房です。
一般的なエアコンのように風を吹き出して室温を調整するのではなく、ラジエータの中に水を循環させ、放射と自然対流によって空間を穏やかに冷暖房します。
夏場、外からU10に入ったときの感覚は、少し洞窟の中に入ったときのようです。
ひんやりしているけれど、冷たい風が身体に直接当たるわけではない。
それでも、身体全体が包み込まれるような、心地よい涼しさがあります。
冬も同じです。室温を必要以上に高くしなくても、ほんのりと身体を包むような暖かさを感じます。
派手さはありません。でも、長くその場所にいるほど心地いい。そんな、とても優しい冷暖房です。
明るければいい。広ければいい。ではない

U10では、空間の明るさについても少し違った考え方をしています。
大きく外へ開くところと、落ち着いて過ごすところ。
明るいところと、少し暗さを残すところ。
すべてを均一に明るくするのではなく、あえて陰影をつくっています。
イメージしたのは、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の世界です。
大きな窓から景色を楽しむ場所がある一方で、少し光を落として静かに過ごす場所もある。
「明るさ」だけではなく、「暗さ」も心地よさとして楽しむ。
これもまた、暮らしをつくる設計の一つだと思います。
新築には新築の、リノベーションにはリノベーションの自由がある
こうして考えてみると、「新築は自由で、リノベーションは制約が多い」と単純に分けるものではないことが分かります。
もちろん、リノベーションには既存の構造があります。
何もないところから自由につくる新築とは、設計のスタート地点が違います。
でも、その建物が持っているものをきちんと読み解き、耐震性や断熱性を整えたうえで設計していけば、自分たちが思い描く暮らしは、かなり高いレベルまで実現できます。
そして時には、制約があるからこそ、新築では思いつかなかった空間が生まれる。
私は、そこにリノベーションならではの自由があると思っています。
百聞は一見にしかず。いや、「一泊にしかず」かもしれません
U10は宿泊施設としても利用していますので、実際に泊まっていただくことができます。
また、「性能向上リノベーションって、本当にこんなに変わるの?」「この断熱や冷暖房を実際に体感してみたい」というお客様とは、U10で打ち合わせをすることもできます。
百聞は一見にしかず。
でも、住まいの心地よさは、見るだけでも分からないかもしれません。
暖かさや涼しさ。静けさ。朝起きたときの室温。光の入り方。時間によって変わっていく居心地。
そう考えると、リノベーションは、「百聞は一見にしかず」ならぬ、「百聞は一泊にしかず」なのかもしれません。
ぜひ一度、自分の身体で体感してみてください。
まだ、リノベーションの入り口です
エフ・ベースでは、リノベーションのご依頼が増え、さまざまな住まいを手掛けるようになってきました。
ホームページではご紹介できない事例でも、個別にご案内したり、打ち合わせの際に資料としてお見せできたりするものもあります。
①では「性能」について。②では「お金」について。そして今回は「暮らし・設計の自由度」についてお話ししました。
ここまで読んで、「リノベーションって、思っていたよりいろいろできるんだな」と感じてもらえたら嬉しいです。
でも、まだ皆さんは、リノベーションの入り口に立ったばかりです。
古いものを残す。新しいものを加える。性能を上げる。暮らしを組み替える。そして、その家にしかない魅力を見つけていく。
知れば知るほど、リノベーションは奥深く、面白い世界です。
どうぞ、奥深いリノベーションの世界を楽しんでください。私たちが、エスコートします。


